文庫表紙の紙

osamuharada2007-12-23

今日の話は、パレットクラブのイラスト教室生徒さん向けなので、フツーの方にとってはどうでもいい話かな。  新潮社から頼まれて、赤川次郎さんのシリーズ小説、その単行本装丁デザイン(前回もぼくが担当)をしました。  イラストのほうは、小説シリーズの主人公である小学生姉弟の二人を描くことが最初に決められています。 デザインのほうは、まずゲラ刷り(原稿の校正刷り)を読むことから始まります。今回は小説が半分、後の半分は赤川さん自身の旅行記という構成でした。どちらもドイツ、オーストリアが舞台です。旅のエッセイは読んでみると、素顔の赤川さんの歴史や文化(文学、クラシック音楽、特にヨーロッパ映画など)に対する造詣が深く、面白かったので、このエッセイから受ける雰囲気も、デザインで何とか読者に伝えたいなと考えました。 そこでふと思いついたのが、前から好きだった新潮文庫の表紙の紙です。このエッセイの持っている大人の「素顔」の感じと、おおかたの読者にはすでに親しまれてれている文庫の紙とが、ピタリと似合うんじゃないかなと思いついた。ただ大衆性のあるカジュアルな紙を選んだということが、ぼくの考えたデザインというわけ。 この紙は新潮社さんが特漉きで昔から使っているオリジナルなので、これをカバーと表紙に使わせてもらえないかと聞いたところ、意外にも前例が無かったから、とりあえずは試しにと、ツカ見本を作ってくれました。(上の写真、真ん中) 出来上がってきたら、いい感じだったので個人的にも気に入ってしまいましたよ。高級な紙とは一味違って、例えて云うなら洗いざらしの木綿のような感じの紙ですね。イラストはこの紙に合うように、シンプルな手描きの線画です。子供の肌の色は紙の色そのままで、使う刷り色もできるだけ少なめに抑えてあります。 ついでに、表紙を開けて見返しと扉に使用した紙は、白の片艶クラフト紙。昔から駄菓子屋さんなどで、菓子を入れたりする紙袋などに使われる、あのやや中身が透けて見える紙ですね。つまりこれもまた大衆的な親しみが、すでにある紙だろうと考えた結果でありました。というような裏方役デザイナーの、どうでもいい話でした。
なお新潮文庫表紙の紙は、1933(昭和8)年から現在に到るまで使われていて、とくに品名は無く、ベージュ色がかった薄い肌色は「柿色」と呼ばれています。新潮文庫の、お馴染みの葡萄マークと飾り罫線のある意匠は1950年からで、山名文夫デザイン。カラーのカバーが表紙の上に掛るようになったのは1955年、サガンの「悲しみよ こんにちは」(版画家・馬淵聖の装画)からだそうです。