長年使っていて飽きのこないのが、この北欧フィンランドのアラビア窯でつくられていた“Valencia”シリーズです。大小の皿やボール、カップ&ソーサーなどのテーブルウェアーを愛用してきました。堅牢でユッタリした形でとても使いやすい。アラビア製陶所の’60年代は、典型的北欧モダンデザインが主流で、オートメーションでつくられ、リトグラフで刷った模様を貼り付ける転写がほとんどでした。そのなかで1963年に発表されたこの「バレンシア」銘は、一人の絵付師による手描き彩色なのでした。深いコバルトの色で、絵筆さばきも見事でした。この無名の職人さんといっても、写真で見るとフツーのおばさんなのですが、引退したのか3年位前に後継者がなくシリーズは終わってしまいました。一人で40年も続いていたのですね。いいデザインは無くならないで欲しかったのになァ、残念。
この手描き模様は、北欧モダンとは一味違って、スペインのバレンシアにあるマニセス窯の伝統デザインを模していると思われます。スペイン全盛期のラスター彩陶器の図柄(もちろん手描き)の写しでしょう。ヨーロッパに輸出もされていました。しかもこのデザインはスペインがイスラム化した時代のイスパノ・モレスコという様式で、アラブ系やユダヤ系の工人によるものでした。オリエントからスペイン、北欧へと旅をしていった図柄がこの“Valencia”というわけですね、ご苦労さん。
スペインの陶器と比べると、硬質でやはりどこかピーンと張り詰めた寒いところの感じがしますね。ぼくはおもに秋冬専用にしています。猪田さんのアキオブレンドも(ミルク砂糖入りで)バレンシアのコーヒーカップと相性がいいですよ。前に書いた京都「ぐりる金星」さんでも昔からバレンシアを使っています。丈夫でほとんど欠けていないそうです。