回り灯籠

osamuharada2006-07-12

明かりのともる地球儀のあとで、ゆくりなく夏の風物詩「回り灯籠」を思い出したのですが、まわりの20代の若い人達に聞いても知らないという。電気仕掛けの盆提灯のことだと思っていた30代もいて、どうもぼくの好きな回り灯籠はとうに絶滅してしまったようです。最後に夏の夜の縁日で見かけたのはもう20年くらい前だったのかも知れないな。走馬灯と呼ぶよりは、下町育ちの子供時代から回り灯籠と呼んで親しんできましたが、これはもとより江戸時代中期から続く庶民的な愛玩物。その昔、灯籠の絵付け仕事は浮世絵師たちの夏のアルバイトだったようです。どうりでイラスト稼業のぼくに親近感を持たせるわけで、百年前なら確実に描いていたでしょう。
写真右は「銀座平つか」さんの、回り灯籠の正確に作られたミニチュアです。ぼくはこれを見た途端に子供時代の夏を思い起こして感じ入りました。また形が小さいということも懐古しやすい要因なのでしょうね。可愛くて懐かしいもの。
実際の回り灯籠は、蝋燭をたててその熱で上のファンが回り始め、蝋燭の明かりに照らし出された中の円筒の影絵もゆっくりと回りだします。外側の寒冷紗(薄い綿布)の張ってある画面にその影絵は投影されて、まるで幻影のように静かにゆらゆらと回転しだします。このミニチュアでも中の影絵は盆踊りをする人々が描かれていて、これは典型的な図柄です。外側の紗には赤い金魚と水草が描かれ、いかにも涼しげです。本物は25cm角くらいありました。戦後は色付きセロファン紙を使って、影絵でなく花火などの色を投影するものもありました。それもまた美しかった。
写真左の本は、歌人吉井勇の短編集「市井夜講」(しせいやこうと読みます)で、装丁には木村荘八ゑがくところの回り灯籠。古くは外側も円筒形のものがあったのですね。影絵には提灯を持つ男や、三味線を弾く門付けの女芸人、右端には犬が顔をのぞかせています。この短編小説自体は鏡花風の怪談話ということなので、それにあわせて、ほのかに夢のようにはかなく灯が揺らぐ、この回り灯籠という図柄はピッタリです。挿絵の天才木村荘八ならではのアイデアです。しかしこれももはや通用しないのだとしたら、なんだかつまらない日本人になってきましたね。
  あさがおのあはれのまはり燈籠かな 万太郎