はち巻岡田の実そば

osamuharada2005-07-15

このブログを書き始めて半年あまりですが、冬に銀座の「はち巻岡田」のことをちょっと書いたら、その後毎日のようにそのキーワードで検索される方々がこのサイトをのぞきに来ています。なので勝手な広報担当者として、夏の情報を書いてみます。
先日も、京都から来た若い友人と連れ立って、はち巻岡田さんに行きました。上の写真は夏の定番「実そば」です。ほどよく冷えたガラスの向付けに、そばの実と上にジュンサイ、そのまた上に海苔、ねぎ、山葵と薬味が乗っかっています。そばの実は、そばつゆをさらに工夫した冷たいダシに浸っています。はち巻岡田らしい、東京下町の懐かしい味覚です。関西の食通でもある友人は初めて食べたので、感激のあまりしばし絶句して涙ぐんでいましたよ。ぼくは西も東もない、この日本に生まれて良かったよなあという感慨の一品でした。それに常温で樽の菊正宗、見事に合っています。他にも旨いものはまだまだ、特に鰺と茗荷のタタキは、歌舞伎でいうと世話狂言のような味覚(芝居好きの方ならご理解いただけると思う)です。いずれも、つましい江戸東京の市井の暮しから生まれた、すぐれた料理だと思います。このお店最大の贔屓だった久保田万太郎俳諧精神を、食べる物に置きかえたなら、こうなると、ぼくは言い切ってしまいたい。また水上瀧太郎原作「銀座復興」は、当店の先代(鉢巻をしている写真がお店にあります)ご主人をモデルにした関東大震災直後の物語です。それを今度は敗戦直後の焼け跡の東京、帝国劇場でかの六代目菊五郎が演じたそうです。戯曲化したのは瀧太郎の朋友、久保田万太郎。こんなことを書くと、お店の敷居が高くなっちゃいそうですが、ごく気楽にフラっと飲みにお出かけ下さいね。