尾上松助

osamuharada2005-11-19

久しぶりに新橋演舞場で歌舞伎を観てきました。同窓で十代の頃からの仲良し、尾上松助丈が一年ぶりの、大病を押しての出演です。体が不自由になったので板付き(幕があがるとすでに舞台に座す)です。その姿を見た瞬間、心配で胸が締め付けられました。しかし長いセリフにかかると、いつもと変わらぬ美声で、安心してその口跡に酔いしれました。聴いているうちに、彼の若い頃からの舞台の数々を思い出しました。世襲制が支配する現代の歌舞伎界(江戸時代は芸と人気が優先)にあって、継ぐべき家系の無い松助には脇役が多かったのですが、どんな役を演じても二百年の伝統が育んだ古風な芝居振りで、しかも洗練された江戸の気分が横溢した、素晴らしい役者です。友達であるえこひいき無しで、そう思います。

幕間に、一緒に観劇したやはり同窓のぼくの古いガールフレンド(といっても孫が三人あり)と、さっそく楽屋見舞いにいきました。楽屋入り口には、上の写真の「着到」(役者さんのタイムレコーダーみたいなもの)があって、ここからは江戸時代のままに、華やかな芝居世界への結界という感じがしてきます。舞台の裏が覗けるせまい通路を歩くと、芝居道具や衣装つづらが並んでいてタイムスリップをおこします。ご贔屓から贈られた、尾上松助丈さんへと染め抜いた美しい暖簾をわけて楽屋に入ると、疲れてはいるようだったけれど、冗談をいう元気もあって、いつもの明るさを湛え、いかにも役者らしい風情の漂う姿がそこにありました。楽屋は息子松也くんとの親子二人部屋。尾上松也は急成長して頼もしくなり、とてもいい役者になっていました。で、さらにオジサンとしては嬉しかったのであります。

追記 これを書いて一月あまり、残念ながら尾上松助は逝去しました。享年59歳。葬儀は12月30日、上野寛永寺にて。冥福を祈るばかりです。