ジャック・ピアソンの看板文字

osamuharada2007-01-05

以前パリで、アメリカのボストン派写真家JACK PIERSONの個展を見た時のこと。よく現代美術や写真作品を展示しているマレ地区のGalerie Thaddaeus Ropacは、その頃写真学校へ通っていた娘の気に入りギャラリーで、ぼくはお供で行ったのですが、初めて見たピアソンの写真は凝った色彩とボケボケ写真の抽象性ですぐ好きになりました。しかし明らかにホモ丸出しの裸写真(これがボストンスクールの特徴らしい)にはちょっと付いていけませんでした。嫌悪感と好感が入り混じった気分で、ふと地下のギャラリー事務所を覗いてみたら、白い壁にピアソンの看板文字作品が掛っているのが目に入りました。それは写真ではなくポップアート的作品で、言葉が“Jerry Lewis”となっていたのでビックリしたのもあるけれど、一文字ずつ違うアメリカの古い看板用の文字を壁に配列して、いかにも過去のハリウッド的気分を横溢させているところが良かったのです。瞬間、先にヤラレタなと思いました。その昔、ぼく自身も思いついたアイデアだったので。もっとも日本にいたのでは、ジャンクのネオン文字や看板用文字は手に入らないからすぐ諦めたのでした。
その後、ピアソンの文字作品(何と呼んだらいいのか不明)を目にして気が付いたことがあります。1960年生まれのピアソンにとってパクスアメリカーナは生まれた頃には終わっていたからか、その時代の通俗的な文字に対するノスタルジックなものとは別の、どこか冷めた客観性が作品にはあること。怜悧だけれどシニカルなところ。これはポップアートとバーバラ・クルーガー作品を混ぜたような現代アートなのでしょう。それはそれとして、ぼくにはこれらのネオンサインや看板文字を製造していた’50年代アメリカの職人や無名のデザイナー達のほうが気になるな。なんと楽しくて美しい文字を考え出したのだろう。そっちの方に強く惹かれてしまいます。概念芸術はもう飽きたしね。その文字作品を多く収めた作品集がRIZZOLIから出ていました。

Jack Pierson Desire/Despair: A Retrospective: Selected Works 1985-2005

Jack Pierson Desire/Despair: A Retrospective: Selected Works 1985-2005